作意の螺旋5






私がすべての真実を知っていたら、私の行動は変わったのだろうか。










街の中は、自分の国とは全く違う所だった。何よりも人が多い。行くところすべてが、人間が開く市場のようだ。

様々な音、臭い、人の気配の荒波に、目が回りそうだ。
なるべく気にしないように歩いた。そうしなければ酔ってしまいそうだった。

小狼たちに置いて行かれないように、かといって近づきすぎないように少し後ろを歩いていた。




さん、どうぞ。」
小狼がずいっと目の前に果物を差し出した。

「あ、ありがとう…ございます。」
赤くてツヤツヤした果物を受け取った。


これは「りんご」という果物らしい。
小狼の国では薄い黄色のものを「りんご」と呼ぶようだが、黒鋼の国では、小狼の「りんご」を「なし」と呼ぶらしい。小狼の国の「なし」はもっと違う形をしていて、ファイの国では「ラキの実」と呼ぶようだ。

果物一つにしても、これだけ違うとは…。

さんの国では、なんと呼ぶんですか?」
小狼が尋ねた。

「え、っと…リリと呼びます。」

「リリですか。全然違うんですね。あ、食べてみてください!おいしいですよ、りんご。」
小狼はシャクっとリンゴを食べて見せた。

も試しに一口食べてみた。甘酸っぱい香りとみずみずしい果汁がおいしかった。胸につっかえていた気分の悪さも、少し良くなった気がした。




「けど、ほんとに全然違う文化圏から来たんだねぇ、俺たち」

感慨深げにファイが言った。
確かにそうだ。この世界で目を覚ましてから今までの短時間に、様々なものを見聞きしたが、どれもまったく違っていた。

歩きながらリンゴを食べていたが、橋から下を流れる川を見ながら、なんとなく足をとめた。

「小狼君はどうやってあの次元の魔女のところへ来たのかなー」

「おれがいた国の神官様に送っていただいたんです。」

小狼から魔力が感じられない。
ここで魔力と呼ばれるものを持っているのは、とファイだけだ。だから神官という魔力を持つものが送ったのだろう。

「黒りんはー?」

「うちの国の姫に飛ばされたんだよ!無理矢理!」
黒鋼はファイに黒りんと呼ばれたことに怒りながら答えていた。
ファイさんは人と打ち解けるのが上手いようだ。もう人をからかっている。



「お前はどうなんだ。」
黒鋼がに訪ねた。

「私は占術師様に送っていただきました。」

にも魔力は備わっているが、そこまで強くはない。

の世界には獣魔人と呼ばれる獣と人の中間のような姿をした人種と、普通の人間の二種類の人種がいる。獣魔人族は生まれながら魔力が備わっているが、人間には魔力がない。しかし、占術師様は、魔法が使えない筈の人間の中で唯一魔法が使える人で、その力はとても強かった。占術師様は皇府の中でも国の王である『皇王』の次の位を与えられ、国民からの支持も厚い。国民の中では『奇跡の人』と呼ぶ人さえいるのだ。



「お前はどうなんだ、ファイ。」

「オレは自分であそこに行ったんだよー」
が彼から感じた魔力は相当のものだった。ファイなら世界を渡ることができる。

はもくもくとリンゴを食べた。

「みんなを送った人はみんな、物凄い魔力の持ち主だよ。でも持ってるすべての力を使っても、おそらく異世界へ誰かを渡せるのは一度きり。」

ファイは真剣な顔で語り続ける。

「色んな世界を渡るには、それ以上に巨大な力が必要だ。それが今出来るのは、あの次元の魔女だけだから。」

そうか。だから占術師様は私を魔女様の所に送ったのか…。彼がどの世界にいるかわからない以上、これが一番の方法だったのだろう。


しかし、こんなに広い世界で、数多の世界で、彼を見つけられるんだろうか…。


ふと不安に襲われ、リンゴを食べる手が止まった。
帽子で隠れた目が、揺らいだ。





「きゃああああああ!!!」


女性の悲鳴が聞こえて顔を上げると、そこにはマフラーとゴーグルという出で立ちの青年たちが低いビルの屋上に立っていた。

「今度こそお前らぶっ潰して、この界隈は俺達がもらう!」
彼らに相対するように、ビルの下にはツナギを来た青年たちが立っていた。

この世界の新参者である小狼たちは訳もわからずきょろきょろするばかりだった。は不穏な空気を察して、戦闘へと構える。

どうやらこれは若者同士の縄張り争いらしい。

グループの頭の合図で両者が一斉に喧嘩を始めた。

大きいもの、小さいもの、形もさまざまで、動物を模したものや怪物のような怖そうなものがどんどん出てくる。

「あれが功断か」

「モコナが歩いてても驚かれないわけだー」

ファイは呑気に話しているが、そうも言ってられない程、状況は激しくなっていった。

ツナギのグループのリーダーが、高みの見物を決め込んでいたゴーグルのグループのリーダーに攻撃をしかけた。彼の功断は大きく強そうに見えた。このままではゴーグルのリーダーはやられてしまう!

攻撃が当たる寸前、大きな波が襲い、その功断を倒した。
ゴーグルの彼が出した功断は特級で、鳥や魚のような形をしていた。
彼の功断が出した波はとても大きく、周りにいた人々にも襲いかかった。

人々の騒ぐ声が聞こえる中、小狼の「危ない!」という叫び声が響いた。がそちらを振りかえると、転んでしまった少年を波が襲う寸前だった。


危ないっ…!



ゴォッ!!


は大きな炎の発する熱に、顔を腕でかばった。
小狼が発した炎が彼の功断の水を蒸発させたのだった。

青年は無事だった。

「お前の功断も特級らしいな」

ゴーグルのリーダーが小狼を見て、にやりとした。








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<あとがき>
やっとこさ漫画が読める環境に戻ってまいりましたので、さっそく書いてみました。やっと1巻終わった…。このペースで大丈夫だろうか…。原作沿いと言っても途中までの予定なので大丈夫だと思いますが、長くなりそうですね…。久しぶりに書いたので書き方に迷いが見られるかもしれませんが…。あと設定忘れてるとか…。ひとまず書けて良かった。まだ書きたいシーンには程遠いし、この物語の最後の方が大事なので、まだまだ核心にはせまってません。でもその前に彼には小狼くんたちと仲良くなって強くなって成長してほしいな。がんばってね!主人公君!