作意の螺旋2






私がすべての真実を知っていたら、私の行動は変わったのだろうか。










少年は今まで見たこともない空間を飛ぶように通り過ぎた。


ぐっと上へ引っ張られる感覚。
そのまま流れに身を任せる。



「って、ふえてるし――!」


少年は地面を感じた。
雨の香り、服に染み渡る水。


少年はフードを目深にかぶり、跪いたままあたりを見渡した。


目の前には少年が少女を抱えている。
その右には白い衣装に長い杖を持った男が、左には黒いマントを纏った男が立っていた。
みな、少し驚いた様子で彼を見ていた。


「って、またふえたし――!」


声がする方を見ると、黒い服を着て、何かを抱える少年。


「やっと、来たわね。」
黒い衣装を身に纏った女性が少年と少女の向こうに立っていた。


「次元の魔女様とお見受けいたします。」

「そうよ。あなた、お名前は?」

少年は佇まいを直すように、片手を膝に、片手を握り締め地面についた。

「申し遅れました。私はと申します。」

、あなたの願いは何かしら。」

「……我が国から異世界へ渡った人を、探し出すことです。」
は俯いたまま言った。

「そう……じゃぁこの3人と同じ、異世界へ行きたいってことになるわね。」


魔女がゆっくりとに近づき、俯いていた彼に上を向かせた。
大きなフードでまだ彼の表情は見えない。
しかし魔女には見えているのだろう。

「願いを叶えるには対価がいるわ。そうねぇ…」

品定めをするように魔女の視線が這う。
しかし彼女の中でもう答えは出ているのだろう。
対価は多すぎても少なすぎてもいけない。


は体をすっぽりと覆ってしまう服の上から大きな首飾りを下げていた。
雫の形をした透明の石がいくつもついていて、淡い光を放っているよう。
腕には不思議な模様が描かれた金色の腕輪が光る。


「その腕輪。」


が握り締めていた手にぐぐっと力が入る。

握り締めた手の手首に嵌められた腕輪に触れた。

「どうしても、この腕輪でなくてはなりませんか?」

「ええ。」

「この首飾りではいけませんか?こちらのほうがずっと価値が…」

「ダメよ。それじゃあ意味がないの。」
魔女はきっぱりと言った。

その腕輪は彼にとって手放せないものだった。

「その腕輪はあなたにとって大切なもの。だから対価となりうるわ。でもその首飾りは大切じゃない。それに首飾りはあなたが持っていることで対価に含まれるわ。」

は答えを出せずにいた。

「対価がなければ願いは叶えられない。」
どんなに大切なものであろうと、手放せないものであろうとそれを手放すことに意味があるのだと、暗にそう言っているのだ。


「……わかりました。」
また彼は俯いてしまった。

地面で握り締めていた拳を浮かせると、そこから腕輪が抜けていった。
腕輪はふわりと宙を飛び魔女の元へと向かった。

体の中に無理やり押さえ込まれていた力が解放され、少し楽になった。


魔女が彼らの正面へと歩いていき、白と黒の生き物について話し始めた。



「この子の名前はモコナ=モドキ。あなた達を異世界へ連れて行くわ。」


その白い生き物はモコナといって、異世界に連れて行ってくれるが、その世界を選ぶことはできないらしい。
つまりいつ彼らの願いがかなうのかはわからない。
運任せということだ。

けれど、と魔女は言う。


「世の中に偶然はない。あるのは必然だけ。」


彼らがここで出会ったのも必然。
ともに旅をすることになったのも必然。

魔女はさらに続けた。

「…異界を旅するということは想像以上に辛いことよ。」

同じ姿をした人に色んな世界で何度も会う場合もある。
その人が同じようにいい人かも悪い人かもわからない。
法律・言葉・生活基準は世界ごとに違う。

その中で生きて旅をすることがいかに大変なことか、と。


「でも、決心は揺るがない……のね」
少女を抱える少年に問うた。


「……はい。」
少年は凛と答えた。

はそれを後ろから見ていた。
対価を差し出すのに戸惑った自分とは違うのだと。
少年の背中はとても逞しく見えた。


「覚悟と誠意
 何かをやり遂げるために必要なものが、あなたにはちゃんと備わっているようね。」


魔女はモコナを手のひらにのせ、前へ差し出す。


「では、行きなさい。」

魔法陣が地面に浮かび上がる。
モコナはふわりと浮かび、大きな羽根が生えた。
眩い光がモコナを包み、風が起こり始める。


ガバァッ


モコナが大きな口を開けると、吸い込まれるように突風が襲う。
ゴアァァァと猛烈な風に引っ張られ、5人は吸い込まれた。


ぱくんっ


モコナの口が閉ざされ、シュルンとモコナ自身も消えた。

そこに残されたのは次元の魔女とめがねの少年たちのみ。



…どうか
「彼等の旅路に幸多からんことを」







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<あとがき>
主人公が得た情報だけを出すように心がけて書いているので、小狼やファイの名前も出てこないです。
代名詞ばかりになって読みにくいかと思いますが、次からは大丈夫だと思います。
せりふをいかに省いて物語りをさくさく進めるか、が今の課題です…。
2013.01.03修正